2000/04/05
OPEN

表紙

1.主旨と説明
2.用語集
3.基本操作法
4.我輩所有機
5.カメラ雑文
6.写真置き場
7.テーマ別写真
8.リンク
9.掲示板
10.アンケート
11.その他企画

12.カタログ Nikon
 F3 (F3H)
 FM3A
 FM2
 FM
 FE2
 FE
 FA
 FG
 FM10
 FE10
 F4
 F-401X

Canon
 AE-1P
 AE-1
 newF-1

PENTAX
 K1000
 KX
 KM
 LX
 MX
 MZ-5
 MZ-3
 MZ-M

OLYMPUS
 OM-3Ti
 OM-4Ti
 OM-2000

CONTAX
 ST
 RTS III
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 RX
 S2

MINOLTA
 X-700
 XD

RICOH
 XR-7M II
 XR-8SUPER

カメラ雑文

[707] 2010年09月09日(木)
「イベントカメラマン物語」


※今回、企業の機密情報に触れる撮影があったため、膨大な写真を撮りながらも公開出来ない写真があることをご了承願いたい。よって、ここでは一般者が撮影可能な範囲での写真掲載にとどめる。


<はじめに>

「プロカメラマン」とは自称である。
ゴルファーのような、プロテストがあるわけではない。写真のレベルが基準以上ということでもない。ましてや、どこかの写真協会に入っているということでもない。

「プロ」と自称することは、撮影した写真が売り物であると主張することに他ならぬ。
だから、プロというのは他者に認められるかどうかということではなく、自分が主張することであり、自分自身のスタンスを示したものと言える。


<撮影の経緯>

先日、某自動車会社の走行実験所にてイベントが行なわれた。
高速周回路での試乗会や、試験棟での各種技術見学会、地元バンドによるコンサート、模擬店出展、その他様々な催しがあった。

我輩の勤務先は、このイベント設営について仕事を請け負っているのだが、我輩自身は担当ではないために本来であれば関わりは無いはずであった。
ところが、イベント用のサインボードや試乗会整理券などの版下データを外注すると利益が少なくなるということで、自社内で製作することになり、我輩がそれを1人で作ることになった。

<サインボード (3D-CGイメージ)>
サインボード

サインボードというのはパソコンで言うところの"アイコン"であり、パッと見て認識出来るものが好ましい。
例えば、トイレのサインなどは「男性は青のズボン姿、女性は赤のスカート姿」というふうに全世界的な共通認識がある。それを変えてしまうと、男女共同参画に熱心で男女に同じサインを使った大阪府豊中市のように、無用な混乱を招くことになろう。サインボードの意味を否定するようなサインボードは作ってはならない。

そういう意味で、サインボードのデザインとしては、「トイレ」や「喫煙所」、「駐車場」などについては、これまで広く認知されているデザインを踏襲することになる。

しかしながら、トイレを例にとっても「男・女」、「男のみ」、「女のみ」の種類があり、それぞれにA3サイズとA4サイズがある。必要枚数も異なる。そういったコマゴマとした種類を管理して作っていくのは意外に手間である。途中から客先の要望が変わり、せっかく作ったものが不要になったり、逆に他のものが必要になったりもして大変だった。

さて、サインボードや整理券の製作が一段落した頃、「実際にサインボードが設置されている様子を見てみたいなぁ」と、ふと思った。
すると、その思念波が上司に伝わってしまったのか、「イベント当日の様子を写真撮影してこい」と指令が下った。

実は、そのイベントに便乗して我が社からは、某メーカーから買った「牛若丸(仮名)」というロボットを展示することになっているのだが、その展示の様子を写真に撮り、「牛若丸(仮名)」の営業パンフレットに使いたいとのことだった。

用意する機材の問題もあることから、どれくらいの写真クオリティを欲しているのかを尋ねたところ、「だいたいで良い」との答え。
こんな漠然とした要求が一番困る・・・。
だいたいで良いのなら、別に我輩でなくとも良さそうだが・・・。まあ、遊び半分で行ってくるか。

想定機材は、先日導入した「Panasonic GF-1」。
イベント前日と当日で1泊出張になるから、なるべく荷物は軽いほうが良い。

自動車メーカーの走行実験所は、通常は入場チェックが厳しく撮影も禁止であるが、イベント当日は一般人が自由に出入りし、写真も自由に撮られることになる。だから、我輩も特に心配はしていなかった。
しかし上司は、無用なトラブルを避けるために「撮影腕章」を用意してくれるという。それさえあれば、イベント中でも撮影禁止区域になっている場所ですら自由に撮影可能とのこと。
まあ、そこまでしなくとも「牛若丸(仮名)」を撮る程度なのだから問題無いとは思うが、イベント前日に「牛若丸(仮名)」が搬入される様子も写真に撮ることになったため、それならばやはり撮影腕章は必要だろうと納得した。

ところが上司が客先に撮影腕章の手配を頼んだところ、「どうせならイベント全体を一通り撮って、その写真を使わせてくれ」と頼まれてしまったようだ。
一気に撮影範囲が広がってしまった。
もちろん、必ず全てを撮れという話ではなく、出来れば多く撮って欲しいという要望である。また、クオリティもプロカメラマンレベルを要求しているわけではない。

しかし客先要望となれば、内容も、そしてクオリティも下げたくない。
使える写真だと思われれば次の仕事にも繋がろう。

機材は「Nikon D700」と、高性能超広角ズームレンズ「14-24mm」を投入せねばなるまい。この組み合わせだけで、シロウトとは違うと感じさせる写真が撮れるからだ。収差の少ない14mmの異様な広大感のある写真は、何か特別な機材を使っているというオーラがあって良かろう。

待てよ、高速周回路を疾走するクルマも撮ることになるのか?
上司に確認すると、「高速周回路を撮れる場所があるかどうか分らないが、当日確認してみよう」ということになった。
もし撮るとなれば、望遠ズーム「70-300mm」も必要か。

それから、ストロボも必要だろう。室内撮影ではストロボは必須であるし、バウンス撮影など内蔵ストロボでは不可能な場面もある。
また、通常撮影用として標準ズーム「24-120mm」も無いと困ろう。
そして、予備バッテリー、充電器、メモリカードなども用意せねば。
「Panasonic GF-1」のほうは、メモカメラとして持って行くことにしよう。ゾウの重量にネズミの重量・・・である。


<イベント前日>

イベント前日は土曜日。休日出勤の出張となる。
荷物にはカメラ機材が多く入っており、大小2つのカバンを用意した。大きなカバンはともかく、小さいカバンのほうは、撮影時に交換レンズを携行するために使うのに必要。
主な荷物がカメラ、しかも必要と思われる機材を全て詰め込んだということもあり、結構な重さとなった。

朝8時、上司がレンタカーの日産キューブを借りて、我輩の近所でピックアップしてもらう。そしてさらに2人をピックアップし、計4人で現地へ向かった。

<レンタカー>
レンタカー
[Panasonic LUMIX DMC-GF1/14-42mm] 2010/08/28 09:20

高速道路は、夏休み最後の土日ということもあってかかなり渋滞していた。13時頃現地入りするということを客先に言っていたようだが、この分では昼食時間を入れると少々時間オーバーするかも知れぬ。

途中、我輩が運転を代わったのだが、このクルマはハンドルが少々固く違和感がある。重いのではなく、固いのだ。スムーズさが無い。
またブレーキペダルも妙な重さがある。まるで固い板バネを踏んでいるかのようだ。

昼食はパーキングエリアの食堂で済ませたが、タイミングが悪く昼時より少し早かった。これでは夕方に腹が減るかも知れない。
パーキングエリアを出ても渋滞は断続的に発生し、ノロノロ運転があったのだが、我輩は無理な追い越しなどせず、とにかくマイペースで走った。

現地近くのインターチェンジを降り、田舎道を走る。以前、JAFの運転トレーニングで行った日本自動車研究所テストコースの時にも思ったことだが、こういう田舎でなければ広いテストコースのある施設は造れないのだろう。

高速道路を降りた後は信号もほとんど無く、スムーズにクルマは到着した。
時計を見ると、13時05分。ほぼ、予定時刻どおりだった。

入館手続きをして駐車場にクルマを停めると、強烈な日差しと熱気でめまいがする。
重い荷物を抱えて関係者控え室に持ち込み、早速、会場設営を始める。
我輩は撮影要員として来たのだが、設営もせねばならないのがツライ。かと言って、我輩だけが特別扱いで何もせぬわけにもいくまい。
1個20kgのウェイトを両手に持って運び回ったり、パラソル付きテーブルの組み立てやゴミ箱設置などをやっていった。

それから、忘れてはならないのが「牛若丸(仮名)」の撮影。神戸の営業所から「牛若丸(仮名)」担当が来て、会場で設置を始めていた。
我輩はその様子を逐一撮影し、どのように設営するのかを記録した。

この日、設営作業を終えたのが19時頃。
場内警備員がクルマで見回りしているのでもう時間切れ。まだ残りがあるので、続きは明日の朝一番でやることになった。

クルマで宿泊ホテルに戻ったところ、今回のプロジェクトリーダーの部長殿が到着しており、部長殿の奢りでホテル内居酒屋にて夕食を摂った。金の心配無く飲み食い出来るというのは格別。
(※ちなみにこの部長殿というのは、雑文123雑文282に登場した当時の課長殿のことである。)

部屋に戻ると、もう23時を越えていた。
酒を飲むと熟睡出来ないのでウーロン茶程度で抑えていたが、朝は6時過ぎに起きることになっており睡眠が十分に取れるか心配だ。
しかしこんなこともあろうかと、自宅から枕を持ってきていたのはここだけの秘密。枕は荷物の中でかなりの割合を占めていたが、おかげで入眠はスムーズだった・・・。


<イベント当日>

イベント当日は快晴で、朝から気温がグングン上昇していた。
我輩は、枕のおかげでグッスリ眠れた気がする。いつもの車中泊と同じような感覚だ。
一方、他のメンバーは少し眠そう。
「やっぱ枕が変わると熟睡出来ないっスよねー。」などと言っているのが笑える。

クルマに乗って会場へ行くと、イベント当日ということで入場門はフリーで通過出来るようになっていた。
8時に到着し、前日にやり残した作業を分担してやっていく。

<サインボードの設置作業>
サインボードの設置作業
[Panasonic LUMIX DMC-GF1/14-42mm] 2010/08/29 09:10

開場は10時の予定なので、時間的には問題無いと思われたのだが、9時過ぎあたりで一般入場者と見られる人々が目立つようになってきた。
「まだ開場してないハズだが・・・?」

後で聞いたのだが、時間前にも関わらず入場者が早くからやってきたため、予定時間よりも早く開場したのだそうだ。
そのせいで、試乗整理券が開場時間前に品切れになってしまったという。時間通りに来た来場者が困るのではないか・・・?

さて、このイベントの運営は自動車メーカーの方々であり、我が社はサポートの役を担う。主に事前準備が7割くらいである。他の者は、準備が終了したので気楽になったようだが、我輩はこれからが本番なのだ。

片腕には標準ズームを装着した「Nikon D700」、小さなカバンにはデカい超広角ズームと望遠ズーム、ベルトには2つのポーチを付けてそこにメモリカードや予備バッテリー、そして予備カメラ「GF-1」とストロボを入れておいた。
自動車メーカー支給のTシャツを着て、左腕には「撮影」の腕章を付けると、オフィシャルカメラマンとしてサマになった。

手持ちのコンパクトフラッシュメモリは16GBのものが最大容量なのだが、これは「D700」ではエラーが頻発するので出来れば使いたくない。エラーは撮影してから数秒経って判明するのでタチが悪い。
そういうわけで、2番目の容量となる4GBのコンパクトフラッシュを最初に使い始めた。

出来れば、イベント全ての出し物を撮影したいのだが、イベントのスケジュール表を見ながら撮りこぼしの無いように動くのは難しい。気を抜くと、目立たないスケジュールを見落としそうになる。

そう言えば、上司は「撮影の合間をみて牛若丸(仮名)の対応もしてくれ」とも言っていたことを思い出した。神戸営業所の担当1人だけでは、食事やトイレの不在時に対応出来ないということで、我輩が補佐を頼まれたのである。
撮影しながらそんなことが出来るのか・・・?
とりあえず、写真だけは撮っておこうと、「牛若丸(仮名)」のコーナーへ寄って子供たちと交流している様子を撮った。

<子供たちと記念撮影中の「牛若丸(仮名)」>
子供たちと記念撮影中の「牛若丸(仮名)」
[Nikon D700/14-24mm] 2010/08/29 10:58

まあ、撮影が早く終われば「牛若丸(仮名)」の手伝いに戻ろうとは思うが、まず無理だろう。
神戸営業所の担当1人だけだったが、こちらの撮影も1人だからな。

しばらく撮っていると、急にシャッターが切れなくなった。見ると、撮影残数がゼロになっている。
手持ちのコンパクトフラッシュメモリカードは、今使っている4GBの他に16GBと256MBの2枚がある。さすがに256MBの低容量は緊急用でしか使えない。他には4GBのSDメモリカード(SDHC)が潤沢にあるので、いざという時はアダプタ経由でSDカードを使うことにする。
とりあえず今は、エラーがよく出る16GBのカードを早めに使い切ってしまおう。時間が早いうちならば、エラーが出ても撮り直せる確率も高いはず。夕方になってイベント終盤にエラーが出るほうが困る。
そういうわけで、SDカードを肝心な時の"押さえ"としてとっておくことにする。

そういえば、高速周回路を疾走するクルマが撮影出来る場所について、客先へ確認するとのことだったが・・・確認は取れていない。
上司に訊いてもらうことになっていたが、この日は上司も急がしそうに動き回っていたので聞きそびれたのだ。

とりあえず、試乗案内所まで行ってみようと思い歩いて行くと、その途中に車両展示のコーナーが見えてきた。そこには、警察ブースのフェアレディZパトカーの展示、懐かしい昭和時代のトラックのレストア(復元)展示、そしてメルセデスベンツの展示があった。

パトカーは撮影リクエストに入っていたのでまずそれを撮影。そして、昭和レトロファンとしてレストア車両を撮影。最後にメルセデスベンツ展示については、車種が多いので、馴染みの1台を写すにとどめた。

<車両展示>
フェアレディZパトカー
レストア車両
W204
[Nikon D700/24-120mm] 2010/08/29 11:09-11:17

さて、車両展示の撮影もそこそこに先を急ぐと、周回路の脇で2人ほどカメラを構えているのが見えた。
我輩もその近くまで行ってみると、なるほど、周回路の直線部分を疾走するクルマが何台も見える。レーンが幾つもあるので、同時に4〜5台くらいは走っているようだった。

我輩は「D700」に「70-300mm」を装着し、ファインダーを覗いてみた。
さすがに遠くのほうは望遠が足りないが、クルマが目前に迫ってくるにつれフレーム一杯になり迫力が増す。

ここではもちろん、一番シロウト受けする流し撮りに挑戦せねばなるまい。
シャッタースピードを遅くするためにISO感度を落としたが、「D700」はISO200までしか下げられない。「D700」は拡張機能でISO100相当の減感も可能だそうが、描写に影響が出ても困るので避けておく(事前に検証もしていないことをやるのは怖い)。

連写に任せて撮ってはいるが、メモリカードへの書き込み速度の問題なのか、あるいはカメラ本体のバッファ容量の問題か、ある程度の枚数を連写すると途中でシャッターが切れなくなる。だから、いくら連写モードであっても、タイミングを図らねば肝心なカットでシャッターチャンスを逃す。

またコース脇の間近から撮っていることもあり、カメラを構えた上半身の回転角も大きく、高速で通過するクルマをフォローする際には終わりのほうで無理な体勢となり、撮影中でも「これはブレたな」と思うことは多かった。

「それにしても、手ブレ防止機能の付いたレンズで良かった。少なくとも上下方向の動きが抑えられれば、流し撮りの成功率も上がるだろう・・・ん? ちょっと待て・・・。」

我輩はハッとして、あらためてレンズ70-300mmレンズの鏡胴部分を見てみた。
そこには、手ブレ機能のスイッチの他に「NORMAL/ACTIVE」のスイッチがあった。

<70-300mmレンズのスイッチ部>
70-300mmレンズのスイッチ部

確か、流し撮りではどちらかにしないといけなかったはず・・・。「ACTIVE」か? それとも「NORMAL」か・・・?
70-300mmレンズなどあまり使う機会も無く、そういうスイッチを切り替えたことが無いのでどちらにすれば良いのか分らない。

何となく、「NORMAL」のほうではないかと思ったが、通常撮影が「NORMAL」で、流し撮りが「ACTIVE」というような解釈も出来よう。
ちなみに現状は「ACTIVE」のほうになっていた。

結局、手ブレ防止機能そのものをOFFにして撮影を続行することにした。
誤った使い方をして逆効果となり全てを失敗させてしまうよりも、自分の腕を信じて、まぐれの成功カットが得られるほうを期待した。

ただそれにしても、我輩は流し撮りをするような撮影対象をこれまでほとんど撮ったことが無かった。
それは不安材料ではあるが、しかし失敗の確率が高ければ、その分多く撮れば良いのだ。要するに、「数撃ちゃ当たる」の理屈。
こういう時、ランニングコストの低いデジタルカメラの利点が活きる。

カメラの背面液晶画面では、何となくうまく撮れているように見えるが、次々に現れる車両を撮っている最中ではジックリと確認するヒマは無い。

<手ブレ防止機能OFFで撮った流し撮り (成功例)>
手ブレ防止機能OFFで撮った流し撮り
[Nikon D700/24-120mm] 2010/08/29 11:43

メモリカードはまだまだ多くあるし、時間さえ許せば16GBメモリカードが一杯になるまで撮っても良かったのだが、さすがにそうもいかない。撮らねばならぬものがまだ他にもある。特に、技術見学会などはツアーとして時間帯が決まっており、それに間に合わねば撮るチャンスが無くなる。
我輩は30分で流し撮りを切り上げ、見学コースの撮影に移ることにした。

技術見学コースは5つあり、それらすべてが屋内で行なわれる。パンフレットに記載されたタイムテーブルを確認し、直近の見学コースに行ってみた。
屋内はクーラーが効いて涼しく、汗を拭いてホッと一息ついた。

技術に関する内容だけに、見学コースは撮影禁止エリアになっている。しかし我輩の左腕に付けている「撮影」の腕章により、撮影が許可された。

我輩が撮らねばならないのは技術的な内容ではなく、見学会の様子である。
どのような雰囲気で行なわれているのかが一目で分るような写真とするには、我輩自慢の14-24mmレンズを投入する絶好の機会であろう。またそれでこそ、フルサイズカメラの威力が発揮される。

撮影の趣旨を見学コースのスタッフに説明したところ、「じゃあ、こちらから撮られてはどうでしょう。」と奥の試験施設に通された。
そこは関係者以外立入禁止区域内。見学者を対面で見ることが出来る絶好のポジションである。

見学者は事前説明を受けているところで、まだ我輩の居る試験施設までは入っていない。その間に、我輩はレンズを14-24mmに換え、ストロボも装着した。天井はかなり高いようだが、感度が高いカメラなのでバウンス撮影は大丈夫だろう。色温度を整えるためにはぜひストロボを使いたい。

バウンス撮影であればマニュアル露出で撮影することになる。ストロボ光と定常光とのバランスを、ストロボ発光量と絞り値とで微調整して、自分自身のイメージに合うようにせねばならないからだ。
数枚撮影してちょうど良い設定値を見付けたので、あとは見学者がこの試験施設に入ってくるのを待つのみ。

ところがふと見ると、「D700」の軍艦部の液晶表示に"CHA"という文字が点滅していた。16GBのメモリカードでたまに出ていたメモリエラーが、今出てしまった。

「・・・クッ!こんな肝心な時にっ・・・。」

あまりのタイミングの悪さに焦った。
高速周回路での撮影は300枚近く連写してもエラーが出なかったのに、なぜ、今出るんだ。
メモリカードを何度も入れ直してシャッターを切ってみたのだが、画像が記録されずに再び"CHA"の文字が点滅する。

<タイミングの悪いメモリエラー>
タイミングの悪いメモリエラー

「もう間もなく見学者が入りまーす。」
スタッフが我輩に声をかけた。
「まずい、早くしないと・・・。」
16GBカードは諦め、SDカードをアダプタ経由で使うことにした。この時のためにSDカードがあって助かった。

ところが焦っているせいか、なかなかカメラにカードが入らない。そこで、ゆっくりと確かめるようにして入れようとしたが、やはり入らない。
良く見てみると、「D700」のスロットが狭く、メモリカードの厚みのせいで物理的に入りようが無い。これはどういうことだ?

実は、「D700」はTYPE-1のコンパクトフラッシュしか使えない仕様で、少々厚みのあるTYPE-2のSDカードアダプタには対応していなかったのだ。

「ちょ、ちょっと待てっ!D200で支障無く使えていたアダプタが、なんでD700で使えんのだっ!? なんでTYPE-1専用なんだっ!?」

事前確認しなかった我輩の責任であるが、それでも、これまで当たり前のように「D200」で使ってきたアダプタだっただけに、まさに青天の霹靂。これが使えなければ、手持ちのメモリカードのほとんどが使えないことになる。

あらためて、コンパクトフラッシュを探してみる。最初に使って残り容量ゼロの「4GB」、エラー状態の「16GB」、そして予備の「256MB」の3枚のみ。
仕方無い、ここは低容量「256MB」で急場をしのごう。

256MBのメモリカードをカメラに装着すると、撮影可能枚数が表示された。その残数は、「6」。
「ろ、6枚か・・・、RAWで撮ると256MBはかなり少ないんだな・・・。」
(※帰宅後に判明したのだが、このメモリカードには音楽MP3ファイルが何曲も入っており容量を喰っていたのである。もし知っていればそのメモリカードをフォーマットして容量を確保したのだろうが、しかしその時は知る由も無かった。)

その時、見学者が試験施設内に入り始めたので、そのまま数枚を撮ってみた。だが残り6枚ではどうにもならぬ。
もう一度、「16GB」に換えてみたが、撮影するとやはりエラーが出る。
バッファからの書き込み時にエラーとなるためか、撮影してしばらく見ていないとエラー表示が出ない。だからシャッターを切った後、液晶表示を見ながら「撮れたか・・・? 撮れたか・・・?」と気を揉むのだ。
幸い、メモリカードを何度か入れ直していると、ようやく正常に書き込みが終わり、何とかピンチを脱することが出来た。

その後、他の見学コースを回っていったのだが、疲労と暑さのためにペットボトルの水分をガブ飲みする状況。熱中症の危険性を意識して過剰に飲んでいる面もあろうかと思う。
そのせいで水腹となり、昼を過ぎても腹が減らない。
控え室には我輩の弁当だけが手付かずで残っていたようで、それを心配した上司から携帯電話に連絡が度々入った。まあ心配も分るが、見学コース中に携帯電話を鳴らされて少々ウンザリした。

我輩としては、写真撮影を頼まれた以上は我輩の判断で動きたい。
プロ品質を要求されているわけではないが、我輩が頼まれた以上は我輩品質は貫きたい。そのためには、写真的画質はもとより、こまめに歩き回って様々な視点から撮影をする。高速周回路での撮影以外は、ジッと同じ場所で撮影することは無く、常に歩き、時には小走りしていた。恐らく、スタッフの中で我輩が最も長距離歩いたに違いない。
疲労についても、これまでの登山の経験から、自分の限界点まであとどれくらいかということが分っているつもりだ。

そんな時、携帯電話にスタッフの1人から連絡が入った。
客先からの要望で、高速周回路を走るバスに乗って、車内から撮影してくれとのこと。
何だ、この指示は・・・? 明確に撮影業務を請け負っているわけではないのに、明確な撮影指示があるというのはどういうことだ・・・?
スタッフのこの気軽な依頼電話といい、どうも写真撮影というものが軽く見られているように思える。

しかし断るわけにもいかないし、自分でも周回路を走る車両に同乗してみたかったので、了承して現場まで小走りした。
小走りした理由は、これは予定外の依頼であるから、他の撮影スケジュールを圧迫すると思ったからだ。そうでなくば、こんなに日差しの強い暑い中に小走りなどするはずもない。

試乗受付で撮影の旨を告げると、フリーパス状態ですぐに乗車出来た。もしこんなところで待ち状態になると後が大変だ。撮影腕章の威力に感謝した。
もっともその時は知らなかったが、試乗希望が多かったために車両が増発され、我輩でなくとも誰でもフリーパス状態で乗れたらしい。

間もなくバスは発車し、周回路に入って速度を上げ始めた。
ちなみに我輩は、以前JAFの運転講習にて日本自動車研究所(JARI)の高速周回路を走るマイクロバスに同乗したことがある。45度バンクはかなりのもので、マイクロバスが横転するのではないかと冷や汗が出るほどだった。
しかし今回は大型バスということで、体感スピードは比較的低く、何より撮影に忙しかったこともありバンクもあまり印象に残っていない。

ともかく、車内での撮影は忙しかった。
というのも、高速周回路を走っている状況が分るよう外の景色に露出を合わせると、車内が真っ暗に写ってしまう。逆に車内に露出を合わせると、外の景色は真っ白に飛ぶ。
だからストロボを使わざるを得ないのだが、高速走行の状況が写るよう、シャッタースピードの調整が必要になる。それに対し、ストロボ光は絞り値にのみ影響を受ける。さりげないバウンス撮影のため、オートではまず無理。

周回路を回ったのは2〜3周程度で、高速走行なだけにすぐに終わってしまい、ジックリ撮れなかったのは残念。
しかしまあ、それなりに見せられる写真は撮れたとは思う。
とにかくこういう場面では、高性能広角ズーム「14-24mm」は重宝する。周辺部までしっかり写っていると確証が持てるところが心強い。

<高速周回路を走行中>
高速周回路を走行中
[Nikon D700/14-24mm] 2010/08/29 13:17

その後、関係者控え室に戻ってみた。
ビン入りのリンゴジュースをガブ飲みし、イスに座り込む。

テーブルの上に弁当が1つ残されていたので、これが我輩の分だろう。それを食べながら、これまで撮った写真をカメラの背面液晶画面でチェックしてみた。
画面が小さいので大きなことは言えないが、それでもなかなか良い具合に撮れているように思う。これならば、仮に今、我輩が倒れてここで撮影不可能になったとしても、ミッションは達成されたと認められよう。
まあ、倒れることは無いだろうが。

それにしても、弁当がほとんど腹に入らない。やはり水腹のせいか。
少し時間をかければ食べられるかも知れないが、時間を見るとイベントステージの後半が始まる15時が迫っていた。休む間が無い・・・。

イベントステージへ行くと、勝ち抜きゲーム大会が始まった。勝ち抜くと商品がもらえるようだ。
我輩は右に左に歩き回り、単調にならぬよう、そして様々な写真利用に適うよう、色々とパターンを変えて撮影した。当然ながら、全体が分るカットや、人物のアップなども押さえておく。

ただ、終盤での勝ち抜きゲーム大会は、参加者が次々に落伍して会場を去って行くので、最後は寂しい状態だった。
「まあ、この寂しさを写すのも、写真撮影のうち。」
我輩は、この様子を記録撮影することで次のイベントに活かされることを祈った。

イベントは、予定より30分早く15時半に終了した。
撮影もそれと同時に終了。

たすきがけしたカメラバッグの紐が肩に痛かった。襟をめくってみると肩が赤くなっていた。
カバンにはレンズ2本とストロボくらいしか入っていないが、14-24mmレンズは意外に重いし、何よりも一日中肩に掛けていたことで、ちょっとした重さでもここまで負担になったのだろう。

その後すぐに撤収作業に入り、疲れた身体のまま力仕事に移行。だがどうにも体が動かなくなる場面があったので、力作業の時はさりげなく別の現場に移動してやり過ごした。それくらいの自衛は許されよう。

ただそれにしても、我輩の作ったサインボードが足で踏まれヘシ折られて山積みにされるのを見るといたたまれなくなる。
「愛が無いぞ・・・、愛が・・・。」
イベントが終了すれば捨てられるのは当たり前だが、目の前でやられると力が抜ける。

大まかな撤収作業は2時間くらいで終了。
控え室には差し入れられた飲み物が幾つかあり、飲み残したものはスタッフで分けることになった。我輩は、山のように積んであるビン入りの100%リンゴジュースがうまそうに思い、荷物になるとは思ったが2本入りケースで持ち帰ることにした。恐らく、疲労で糖分を欲していたのだろう。

我輩その他3名はこの日のうちに帰宅するため、来た時とは別のクルマに便乗し、関東へ向けて3時間ほど高速道路を走った。
ただし我輩は亀有駅で降ろされたため、そこから電車と徒歩でさらに時間がかかった。重い荷物が肩に食い込む。
「ビン入りジュースは予定外だったな・・・。」
途中、脚がつったりしたが何とか持ち直し、ようやく自宅へ戻ったのは21時を少し回ったところだった。

自宅では、もう何もヤル気が起きなかった。立ち上がるのもしんどい。
写真の出来は気になったが、とりあえずデータをパソコンにコピーするにとどめた。翌月曜日は代休を取っているので、調整作業はその時にやろうと思う。

それにしても、メモリカードは「4GB」と「16GB」の2枚で何とか足りたので良かった。
撮影総数1,200枚、全てがRAW記録。半数近くが高速周回路の撮影のため、失敗写真を選り分けると意外に少なくなるかも知れぬ。


<イベント翌日>

この日は代休を取っていたので、家でノンビリしていられる・・・と思ったが、1,200枚もの写真を整理・レタッチせねばならない。
何しろ、RAW現像ソフトは我輩の自宅パソコンにしか入っていないし、大量の写真の色調整をするにはキャリブレーションをしてある自宅のパソコンディスプレイでなければ難しい。もし誤った色調整をしてしまうと、画像の数が多いだけにやり直しが大変になる。

午前中のうちは、気になる流し撮りの写真を整理する。
採用率は3割くらいか。

不思議なことに、車両の前面はピタリとブレ無く写っているのに、車両後部だけが上下にブレているという写真が幾つもある。失敗写真とすべきか迷ったが、全体の印象から判断して採用カットとしたものが多い。
もしかしたら、これは手ブレ防止機能の「ACTIVEモード」が関係しているのだろうか?
ちなみに、「NORMAL/ACTIVE」スイッチの件は、流し撮りの場合は「NORMAL」にするのが正しいようだ。

午後は残りの写真を調整した。
しかし、やはり写真の数が多いせいで、レタッチ以前の取捨選択作業でかなりの時間を費やした。そして、この日のうちに作業を終えることは出来なかった。

そうなると、次の土日まで作業が中断してしまう。平日の夜の帰宅後に作業すれば良いかも知れぬが、毎日の通勤時間4時間弱に加えてさらに自宅作業というのもバカらしくやっていられない。それに、撮影というものが現像処理を含めた一連の作業が済むまで完結しないということを職場にアピールする意味でもそれくらい待たせても良かろう。

ちなみに、全撮影枚数は約1,200枚。取捨選択作業によりほぼ半分の640枚を採用とした。
流し撮りの採用率が低いせいで全体の採用率が下がっていることになるが、流し撮り以外での採用率は撮影ポジションも良かったことからそれほど悪くない。RAWのレタッチ耐性の良さもあり、本来ならば捨てていたカットも救済されたように思う。ただ、さすがにブレやピンボケ、タイミングの悪さだけはRAWでの救済は無理だが。

我輩は、今回の戦利品である冷えたリンゴジュースをゆっくり飲んだ。
「なかなか美味い。これは高級品だな。」
イベント当日に飲んだ時は、あまり冷えてなかったし、ノドの乾きのせいで流し込むように飲んだのでジックリと味わえずもったいなかった。
どうせなら2箱持って帰れば良かったかと思ったが、当日の疲労状態に戻ったとして考えると、そんな気持ちも消えるに違いない。

<戦利品の高級リンゴジュース>
唯戦利品の高級リンゴジュース


<写真提出>

1週間後、もったいぶっていた写真を職場に持参し上司に提出。その他スタッフにも写真を見せた。
スタッフの1人が、「これはプロ並だな」と言った。
我輩は、「プロのつもりだが」と返した。

我輩は業務で撮影しているのだから、プロには違いなかろう。
しかし、そういう言葉の定義よりも、どんなに頑張ったところで"アマチュア"という社内評価を越えられないのが悲しいところ。

今回は成り行き上、客先に対してはイベントの付随サービスとして無償の撮影作業となったが、次回も撮影要請があった時はどうするつもりか?

「ウチのプロが撮った写真です」と客先に言うことが出来れば、それが社としてのスタンスとなり、写真が商品に変わる。
それが出来ねば、それを商売とすることはとても出来まい。


<後日談>

撮影写真を提供した際、技術見学会の撮影に関し、客先より感謝の言葉が伝えられた。
客先でもイベントの撮影はしていたものの、見学会の撮影は不完全だったため、我輩が丹念に撮ったものが役立つとのこと。
当初は「出来る範囲で撮って欲しい」という要望だったが、見学会に関しては、諦めずに全てのコースを網羅しておいた甲斐があった。
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イラスト提供:シェト・プロダクション